行政事件訴訟法と国家賠償法に見る「公権力の行使」
行政事件訴訟法と国家賠償法における「公権力の行使」の概念には、一定の違いがあります。以下に、両者の比較と違いを説明します:
- 基本的な違い:
- 行政事件訴訟法:主に取消訴訟の対象となる行政処分を念頭に置いています。
- 国家賠償法:より広い範囲の公権力の行使を対象としています。
- 範囲の広さ:
- 行政事件訴訟法:比較的狭く解釈される傾向があります。
- 国家賠償法:より広く解釈される傾向があります。
- 具体的な違い:
a) 行政事件訴訟法の「公権力の行使」:- 主に行政処分(申請に対する処分や不利益処分など)を指します。
- 権力的作用が中心となります。
- 具体的な法的効果を持つ行為に限定される傾向があります。
- 行政処分だけでなく、事実行為や内部的行為も含みます。
- 非権力的作用も含まれます。
- 公務員の職務行為全般を広く含むと解釈されています。
- 判例の立場:
- 最高裁昭和30年4月19日判決:国家賠償法における公権力の行使を広く解釈しました。
- 最高裁昭和39年10月29日判決:行政事件訴訟法における処分性をより限定的に解釈する傾向を示しました。
- 具体例:
- 行政指導:
行政事件訴訟法では通常「公権力の行使」とされませんが、国家賠償法では含まれる可能性があります。 - 規制権限の不行使:
行政事件訴訟法では通常対象とならないが、国家賠償法では「公権力の行使」に含まれる可能性があります。
- 行政指導:
- 理由の違い:
- 行政事件訴訟法:訴訟の対象を明確にするため、比較的限定的に解釈されます。
- 国家賠償法:被害者救済の観点から、広く解釈される傾向があります。
- 学説の動向:
- 近年、両者の解釈をより接近させるべきという見解も出てきています。
結論:
行政事件訴訟法と国家賠償法における「公権力の行使」の概念には、範囲や解釈に違いがあります。国家賠償法の方がより広い範囲をカバーし、被害者救済の観点から柔軟に解釈される傾向にあります。一方、行政事件訴訟法では、訴訟の対象を明確にする必要から、より限定的に解釈される傾向があります。ただし、この違いについては、学説や判例の中でも議論が続いており、完全に確立した見解があるわけではありません。