最判平25.4.16(水俣病認定は行政庁の裁量に委ねることがことができるか?)

最高裁判所平成25年4月16日判決(民集67巻4号1115頁)は、水俣病の認定基準に関する重要な判例です。以下にこの判決の概要と行政庁の裁量に関する言及を解説します。

  1. 事案の概要:
    水俣病の認定申請を棄却された患者らが、熊本県知事を相手に認定申請棄却処分の取消しを求めて提訴しました。
  2. 主な争点:
    水俣病の認定における行政庁の判断基準と裁量の範囲
  3. 判決要旨:
    a) 水俣病の認定は、個々の具体的な症候と全体的な臨床像に基づいて総合的に行われるべきである。
    b) 昭和52年判断条件(環境庁の通知で示された認定基準)に該当しない場合でも、他の症候の組合せ等から水俣病であると認められる可能性がある。
    c) 行政庁は、昭和52年判断条件に機械的にあてはめるのではなく、個別具体的に判断する必要がある。
  4. 行政庁の裁量に関する言及:
    この判決では、水俣病認定における行政庁の裁量について以下のように言及しています:a) 裁量の存在:
    • 水俣病の認定は、専門的・技術的な判断を要する事項であり、行政庁に一定の裁量が認められる。
    b) 裁量の限界:
    • しかし、その裁量には一定の限界がある。昭和52年判断条件に機械的にあてはめて判断することは、裁量権の範囲を逸脱または濫用したものとして違法となる可能性がある。
    c) 裁量権行使の在り方:
    • 行政庁は、昭和52年判断条件を満たさない場合でも、他の症候の組合せ等から総合的に判断する必要がある。個々の事案に即して個別具体的に判断することが求められる。
    d) 司法審査:
    • 裁判所は、行政庁の判断が裁量権の範囲を逸脱または濫用したものでないかを審査する。
  5. 判決の意義:
    a) 水俣病認定基準の柔軟な解釈を示し、認定の幅を広げる可能性を開いた。
    b) 行政庁の裁量権行使の在り方について、重要な指針を示した。
    c) 専門的・技術的判断を要する行政処分における裁量と司法審査の関係を明確にした。

この判決は、水俣病認定問題に関する重要な先例となっただけでなく、行政庁の裁量権行使と司法審査の在り方について、広く行政法全般に適用可能な重要な指針を示したものとして評価されています。特に、専門的・技術的な判断を要する行政処分において、行政庁の裁量を認めつつも、その限界を示し、個別具体的な判断の必要性を強調した点が重要です。

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