最判昭29.1.21(農地買収計画の取消を認めた裁決は行政庁自ら取り消せるか?)

最高裁判所昭和29年1月21日判決(民集8巻1号131頁)について、解説します。

  1. 事案の概要:
    農地委員会(現在の農業委員会)が行った小作地の売渡裁決に対して、地主が取消訴訟を提起しました。
  2. 主な争点:
    行政庁の裁決に対する取消訴訟の可否
  3. 判決要旨:
    a) 原則として、裁決そのものを対象とする取消訴訟は許されない。
    b) 例外的に、以下の場合には裁決の取消訴訟が認められる:
    • 裁決の固有の瑕疵を主張する場合
    • 裁決の前提となる原処分が存在しない場合
    • 原処分が無効である場合
  4. 判決の理由:
    a) 裁決は原処分に対する不服申立ての審査結果であり、原処分の適法性を確認または是正するものである。
    b) 裁決に対する取消訴訟を広く認めると、原処分の違法性を争う機会が実質的に延長され、行政処分の早期確定という法の趣旨に反する。
    c) 原処分の違法性は、原処分に対する取消訴訟で争うべきである。
  5. 裁決の特殊性に関する判示:
    この判決では、裁決の特殊性について以下のように言及しています:
    a) 裁決は、原処分についての不服申立てに対する裁断であり、原処分とは別個の行政処分である。
    b) 裁決には、原処分を是正する機能がある。
    c) 裁決は、行政過程の最終段階における行為であり、特別の尊重を受けるべきものである。
  6. 裁決庁による裁決の取消しについて:
    この判決では直接言及していませんが、判決の論理から以下のことが導かれます:
    a) 裁決は行政過程の最終段階の行為であり、特別の尊重を受けるべきものとされている。
    b) したがって、特別の規定がない限り、裁決庁自らが裁決を取り消すことはできないと解釈される。
  7. 判決の意義:
    a) 行政不服審査制度と行政訴訟制度の関係を明確にした。
    b) 裁決の特殊性を認め、その取消訴訟の可否について判断基準を示した。
    c) 間接的に、裁決庁自身による裁決の取消しが原則としてできないことを示唆している。
  8. その後の影響:
    この判決の考え方は、現在の行政事件訴訟法第10条第2項に反映されており、裁決の取消訴訟に関する基本的な解釈指針となっています。

この判決は、裁決の特殊性を認識し、その取扱いについて重要な指針を示したものとして、行政法学において重要な位置を占めています。また、裁決庁自身による裁決の取消しについても、間接的にその制限を示唆しているものと解釈できます。

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