最判昭53.5.26(行政庁の権利濫用)
最高裁昭和53年5月26日判決(昭和51年(オ)第1338号)
事件の概要:
- 東京都中野区が、個室付き浴場の建設を阻止する目的で、その予定地の近隣に児童遊園を設置しようとしました。
- 中野区は児童遊園設置のため、東京都知事に許可申請を行い、許可を得ました。
- 浴場建設を計画していた会社(原告)は、中野区を被告として、この児童遊園設置行為の違法性を主張し提訴しました。
最高裁の判断:
- 最高裁は、中野区の行為が権利の濫用に当たるとして、原告の主張を認めました。
- 裁判所は、以下の点を考慮して判断を下しました:
a) 区の真の目的が個室付き浴場の建設阻止にあったこと
b) 児童遊園の設置場所として他にも適当な場所があったこと
c) 区が浴場建設計画を知った後に急遽児童遊園の設置を決定したこと
d) 区の行為が原告の営業の自由を不当に制限するものであること - これらの事情を総合的に考慮すると、区の行為は社会通念上妥当性を欠き、権利の濫用に当たると判断しました。
判決の意義:
- この判決は、行政機関による公権力の行使であっても、権利濫用の法理が適用されうることを明確に示しました。
- 行政の裁量権行使に対して、裁判所が実質的な審査を行う可能性を示した重要な先例となりました。
- 行政目的の正当性と手段の相当性について、厳格な審査基準を示しました。
- 行政機関に対して、公権力の行使に際しては本来の目的に沿った適切な判断が求められることを明らかにしました。
- 私人の営業の自由と公共の利益のバランスについて、重要な指針を提供しました。
この判決は、行政法における権利濫用の法理の適用範囲を拡大し、行政の裁量権行使に対する司法審査の在り方に大きな影響を与えました。また、行政の目的と手段の正当性について厳格な審査を行う必要性を示した点で、行政法学や実務において広く参照される重要な判例となっています。