民法・相続(第3章 相続の効力)

民法の相続編第三章「相続の効力」は、相続開始後に相続財産がどのように処理されるか、また相続人の権利や義務がどのように引き継がれるかを定めています。この章は、第一節「総則」、第二節「相続分」、第三節「遺産の分割」という3つの節で構成されており、それぞれで相続の具体的な仕組みが規定されています。以下、各節についてくまなく解説します。

第一節:総則(民法896条~899条の3)

第一節「総則」では、相続の基本的な効力に関する規定が設けられています。相続が発生した際、被相続人の財産や権利義務がどのように相続人に承継されるかについての基本的な原則が示されています。

1. 財産の承継(民法896条)

被相続人が死亡すると、相続が開始され、被相続人の財産(プラスの財産)や負債(マイナスの財産)などの権利義務が相続人に当然に承継されます。したがって、特に手続を踏むことなく、被相続人の権利義務は相続開始とともに相続人に移ります。なお、相続人が複数いる場合は、遺産が相続人間で分割されるまでの間、財産は相続人全員で共有することになります。

2. 固有財産の承継(民法897条)

被相続人が持っていた祭祀(さいし)財産、たとえば仏壇や墓、祖先の祭具などは、一般の財産とは異なり、相続人の中で祭祀を主催する者が承継します。これは相続人間で協議して決定し、合意が得られない場合は家庭裁判所が判断することもできます。

3. 遺産に関する権利の行使(民法898条~899条の3)

相続人が複数いる場合、相続財産は各相続人の共有となります。この共有状態では、相続財産に対する権利行使には基本的に相続人全員の同意が必要です。共有財産の管理や処分についてのルールも定められており、財産の保存行為は単独で行えますが、財産の変更や利用・処分については相続人の多数決が必要です。

第二節:相続分(民法900条~902条の2)

第二節「相続分」では、相続人の法定相続分や、遺産分割における考慮事項について定めています。相続分は、法定相続分と指定相続分に分けられます。

1. 法定相続分(民法900条)

法定相続分とは、法律で定められた相続人の相続割合のことで、被相続人が遺言を残していない場合に適用されます。法定相続分は、主に以下のように規定されています。

配偶者と子が相続人の場合:配偶者1/2、子1/2(子が複数の場合は子の相続分をさらに等分)

配偶者と直系尊属が相続人の場合:配偶者2/3、直系尊属1/3

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合:配偶者3/4、兄弟姉妹1/4(兄弟姉妹が複数の場合は等分)

2. 指定相続分(民法902条)

指定相続分とは、被相続人が遺言で特定の相続人に相続させる割合を指定した相続分のことです。被相続人が遺言で相続分を自由に定めることができ、法定相続分よりも優先されます。ただし、遺留分の侵害がある場合には、遺留分を有する相続人は遺留分減殺請求を行うことが可能です。

3. 特別受益と寄与分(民法903条、904条の2)

特別受益や寄与分は、相続人間の公平を保つための調整項目です。

特別受益(民法903条):相続人のうち特定の相続人が、生前に被相続人から特別な財産を受けていた場合(結婚の支度金や住宅の購入資金など)、その分を相続分の計算に反映させる仕組みです。この場合、特別受益分を遺産に「持ち戻して」から相続分を計算します。

寄与分(民法904条の2):相続人のうち、被相続人の財産の維持・増加に特別に貢献した人がいる場合、その貢献分を考慮して相続分を調整します。寄与分を有する相続人がいる場合、遺産を寄与分として評価した上で各相続人の相続分を算定します。

第三節:遺産の分割(民法906条~914条)

第三節「遺産の分割」では、相続人が共有状態にある遺産をどのように分割して個別の所有に帰するかについて規定しています。遺産分割は、相続人間で協議により行うのが基本ですが、協議が整わない場合は家庭裁判所で調停や審判が行われます。

1. 遺産分割の基準(民法906条)

遺産分割の基準については、以下の要素が考慮されます。

• 各相続人の年齢、職業、健康状態、生活状況など

• 相続人が相続財産を取得することで家業などに及ぼす影響

分割の際には法定相続分や指定相続分が原則として考慮されますが、相続人間の合意があれば、自由に分割方法を決定することも可能です。

2. 遺産分割の方法(民法907条)

遺産分割は、以下のような方法で行われます。

協議分割:相続人全員の合意によって行う遺産分割方法。協議によって自由に分割方法を決めることができます。

調停・審判分割:協議が成立しない場合、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てます。調停は相続人間の話し合いを進める手続であり、調停で合意に至らない場合には審判により裁判所が分割を判断します。

3. 遺産分割の禁止(民法908条)

相続人間の協議によって、一定期間、遺産の分割を禁止することができます。たとえば、家業や事業を相続する場合などに、遺産分割を一時的に保留することが考えられます。分割禁止の期間は5年以内ですが、特別な理由があれば家庭裁判所の許可を得て延長することも可能です。

4. 遺産分割の効力(民法909条~914条)

遺産分割の効力に関する規定では、遺産分割が完了した際に、その効力がどの時点にさかのぼるかを定めています。原則として、遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼる(遡及効)ため、分割された財産は相続開始時から各相続人に帰属することになります。

また、分割後に無効とされる場合や取り消しが認められる場合もあり、こうした場合は無効・取消しが確定した時点から効力が発生します。

以上が、民法相続編第三章「相続の効力」の解説です。この章では、相続が発生した際に財産の分割や相続分の算定

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