民法・相続(第4章 相続の承認及び放棄)
民法の相続編第四章「相続の承認及び放棄」では、相続人が相続をどのように引き受けるか、あるいは引き受けないかについて規定されています。相続人には、相続財産全てを承継する単純承認、相続財産の範囲内でのみ負債を引き受ける限定承認、相続を一切しない相続放棄の3つの選択肢があります。この章は第一節「相続の承認及び放棄」、第二節「相続の承認」、第三節「相続の放棄」という3つの節で構成され、それぞれに相続に対する相続人の対応について定められています。以下に詳細を解説します。
第一節:相続の承認及び放棄(民法915条~921条)
第一節では、相続の承認または放棄についての基本的な手続や効力に関する規定が設けられています。相続人は、相続が開始したことを知ってから3か月以内に承認または放棄の選択をしなければなりません。この期間を熟慮期間といいます。期間内に選択を行わない場合、相続を単純承認したとみなされます(民法915条)。
1. 相続の承認・放棄の手続き(民法915条~917条)
相続人が相続の承認や放棄をする場合、家庭裁判所への申述が必要です。相続開始の事実を知ってから3か月以内に申述しなければなりません。ただし、特別な事情があれば、家庭裁判所に期間の延長を申し立てることができます(民法915条第2項)。
2. 単純承認の効力(民法918条)
相続人が次のいずれかの行為をした場合、相続を単純承認したとみなされます。
• 熟慮期間内に相続の承認・放棄の意思表示を行わなかった場合
• 相続財産の全部または一部を処分した場合
• 限定承認または放棄が無効であった場合
この場合、相続人は被相続人のすべての財産と負債を無制限に承継することになります。
3. 限定承認と相続放棄に関する制限(民法919条~921条)
限定承認または相続放棄は、相続人が複数いる場合は共同で行わなければならないとされています。いずれかの相続人が単純承認した場合、その時点で限定承認や放棄をすることができなくなります。また、相続放棄が無効になった場合も単純承認とみなされます。
第二節:相続の承認(民法922条~927条)
第二節「相続の承認」では、相続を承認する場合の手続きや、相続人が選択できる「単純承認」と「限定承認」について詳しく規定されています。
1. 単純承認(民法922条)
単純承認とは、被相続人の財産と負債のすべてを無制限に引き継ぐことです。単純承認の場合、相続人は被相続人の財産を取得するだけでなく、被相続人が有していた債務(借金など)もすべて引き継ぎ、相続財産の範囲を超えて責任を負うことになります。多くの場合、何も手続をしないと単純承認が適用されます。
2. 限定承認(民法922条~927条)
限定承認とは、相続によって得た財産の範囲内でのみ負債を引き受ける制度です。これにより、相続人は相続財産を超えて負債を返済する義務がなくなります。
• 申述の手続:限定承認は家庭裁判所への申述が必要であり、相続人全員が共同で行わなければなりません。
• 相続債権者および受遺者への公告(民法923条):限定承認をした場合、相続人は家庭裁判所の許可を得て、相続債権者および受遺者に対して公告し、債権者からの請求を受け付けます。
• 弁済手続き(民法924条):公告後、相続人は、相続財産の範囲内で債権者や受遺者に対する弁済を行います。
限定承認を行うと、財産の範囲内でしか責任を負わなくなるため、負債が相続財産を上回る場合でも安心して相続手続きを行うことができます。
第三節:相続の放棄(民法938条~940条)
第三節「相続の放棄」では、相続人が相続を一切引き受けないことを選択する「相続放棄」についての手続きと効力が規定されています。
1. 相続放棄の手続き(民法938条)
相続放棄をする場合、相続人は相続開始を知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。相続放棄をすることで、相続人は相続開始時に遡って、初めから相続人でなかったとみなされます。これにより、財産の取得も負債の承継も一切行わないことになります。
2. 相続放棄の効力(民法939条)
相続放棄が認められると、その相続人は初めから相続人でなかったものとみなされます。このため、相続放棄をした人は財産の取得も借金の支払い義務もありません。相続放棄が行われた結果、次順位の相続人(たとえば、子が放棄すれば直系尊属や兄弟姉妹など)が新たな相続人となります。
3. 相続放棄後の管理義務(民法940条)
相続放棄をした相続人には、被相続人の財産の管理義務があります。相続放棄が家庭裁判所で認められるまでの間、他の相続人や家庭裁判所の指示に従って財産を適切に管理しなければなりません。財産の処分や管理に責任が発生するため、この義務に違反した場合、管理責任を問われることもあります。
以上が、民法相続編第四章「相続の承認及び放棄」の解説です。この章は、相続人が相続財産をどう取り扱うかについての選択肢や手続きが詳細に規定されています。