民法・相続(第5章 財産分離)

民法相続編第5章「財産分離」は、相続財産と相続人の固有財産を分離することにより、相続債権者や受遺者(遺贈を受けた人)を保護する制度です。財産分離によって、相続債権者や受遺者は相続人の債権者に優先して相続財産から弁済を受けることが可能になります。以下、条文の内容に沿って、財産分離について解説します。

財産分離の制度趣旨

相続人が相続した財産が、相続人の固有の財産と混在してしまうと、被相続人の債権者が弁済を受けられない可能性が生じます。このため、財産分離を行うことで、相続財産のみを対象とした弁済が優先的に行えるようにし、相続人の固有財産と相続財産を分離します。

第941条:相続債権者または受遺者による財産分離の請求

請求権者:相続債権者や受遺者は、家庭裁判所に対して相続財産の分離を請求できます。

請求期限:相続開始から3か月以内に請求する必要があります。ただし、相続財産が相続人の固有財産と混ざっていない場合は、3か月経過後でも請求可能です。

公告義務:財産分離が認められた場合、請求者は5日以内に他の相続債権者および受遺者に対して公告し、一定期間内(2か月以上)に配当加入の申出をするよう通知する必要があります。この公告は官報に掲載されます。

第942条:財産分離の効力

財産分離が行われた場合、請求者および配当加入の申出をした者は、相続財産から優先的に弁済を受けることができます。これにより、相続人の債権者よりも先に、相続財産に対して弁済を受けられるようになります。

第943条:財産分離請求後の相続財産の管理

財産分離の請求があると、家庭裁判所は相続財産の管理に必要な措置を取ることができます。また、家庭裁判所が管理人を選任する場合は、民法27条~29条の規定に従います。

第944条:相続人による相続財産の管理義務

財産分離請求があった後は、相続人は自己の財産と同等の注意をもって相続財産を管理する義務を負います。ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合はこの義務は適用されません。さらに、管理義務に関する民法645条~647条および65条1項・2項が準用されます。

第945条:不動産についての財産分離の対抗要件

財産分離を行う場合、相続財産に不動産が含まれる場合には、登記を行わなければ第三者に対抗することができません。したがって、登記によって財産分離の効力が第三者に及ぶようになります。

第946条:物上代位の準用

財産分離に際して、相続財産が担保物権(抵当権や質権など)に設定されている場合、民法304条に基づく物上代位の規定が適用されます。これにより、担保権者が相続財産を差し押さえた場合、財産分離の範囲内で弁済を受けることが可能です。

第947条:相続債権者および受遺者への弁済

弁済の拒否権:相続人は、941条1項および2項で定められた期間が満了するまでは、相続債権者および受遺者に対して弁済を拒否することができます。

弁済の義務:財産分離が請求された場合、941条2項の期間満了後には、相続財産をもって、配当加入を申出た相続債権者および受遺者に債権額の割合に応じて弁済する必要があります。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできません。

第948条:相続人の固有財産からの弁済

財産分離の請求者および配当加入の申出をした者が、相続財産から全額弁済を受けられなかった場合、相続人の固有財産に対しても弁済を求めることができます。しかし、この場合、相続人の債権者が先に弁済を受ける権利を有します。

第949条:財産分離の請求の防止等

相続人は、自己の固有財産を使って相続債権者または受遺者に弁済するか、担保を提供することで、財産分離の請求を阻止したり、その効力を失効させることが可能です。ただし、相続人の債権者がこれにより損害を受ける場合は異議を述べることができ、その異議が認められれば、財産分離は阻止できません。

第950条:相続人の債権者による財産分離請求

相続人が限定承認をすることが可能な期間、または相続財産が相続人の固有財産と混在しない間、相続人の債権者も家庭裁判所に対して財産分離を請求できます。この場合、民法304条や943条から945条などの規定が準用されます。

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