最判昭56.4.16(月間ペン事件:私生活上の行状が公共の利害に関する事実に当たるか?)
「月刊ペン事件」では、名誉毀損罪を規定する刑法230条の適用における重要なポイントとして、記事に含まれた「私生活上の行状」に対する批判が法的にどのように評価されるかが争点となりました。この事件で最高裁は、私生活に関する事柄に関する表現について、刑法230条がどのように適用されるかに関しても以下のように判示しています。
私生活上の行状に関する判断
最高裁は、記事の内容が対象者の「私生活上の行状」に関するものであった場合であっても、それが公共の利害に関する事実であるかどうかによって、名誉毀損の判断が異なることを示しました。具体的には、以下のような基準が示されています:
- 公共の利害に関する内容か
私生活上の行状が取り上げられたとしても、それが公共の利害に関係する事実であれば、一定の表現の自由が認められる余地があります。しかし、公共の利害に結びつかない純粋なプライバシーの領域に属する事項である場合、批判的な表現が許される範囲は狭くなるとされました。 - 真実性または相当性の要件
公共性が認められる場合でも、批判が事実に基づいていること(真実性)や、真実と信じる相当な理由があることが求められます。月刊ペン事件では、批判内容の真実性や公共性が立証されなかったため、名誉毀損が成立しました。
刑法230条の適用に関する考え方
刑法230条第1項では、他人の名誉を毀損した場合に罰則が定められていますが、同条第2項では「公共の利害に関する事実について、その目的がもっぱら公益を図ることにあったと認められるとき」には、処罰されない可能性が示されています。最高裁は、記事が私生活上の行状を含んでいた場合でも、公共性と公益性が認められることが免責の要件になるとしました。このため、私生活上の行状であっても、公共の利害が認められない場合には、表現の自由が制約されるという判断がなされました。
判例の意義
この判決により、私生活上の行状についての報道や表現の自由には明確な制約があることが示され、特に公共の利害と公益性の判断基準が厳格化されました。この判例は、プライバシーと表現の自由のバランスを示す重要な基準となり、私生活の保護と報道の自由の調整に関する基準として現在も参照されています。