最大判昭44.6.25(夕刊和歌山時事事件:事実の証明がない場合でも名誉毀損の罪が成立しない?)
「夕刊和歌山時事事件」(最大判昭和44年6月25日)は、日本の報道の自由と名誉毀損を巡る重要な判例です。この事件は、地方新聞である「夕刊和歌山時事」が特定の政治家に対して名誉毀損に当たるとされる記事を掲載したことから始まりました。この判例は、公共の利害と真実性の要件、さらに刑法230条の2の適用に関する重要な判断を示しています。
事件の概要
和歌山県の地方紙「夕刊和歌山時事」は、ある政治家の汚職疑惑に関する記事を掲載しました。その内容は、その政治家が賄賂を受け取っているというもので、批判的な論調で書かれていました。これに対して政治家が名誉毀損として訴訟を提起しました。この事件では、刑法230条の2に基づいて「公共の利害」「真実性」「公益性」の判断が争点となりました。
法的な争点
- 公共の利害
記事が名誉毀損に該当するか否かを判断する際、掲載内容が「公共の利害」に関するものであるかが重要な要件となります。本件では、政治家に関する汚職疑惑が取り上げられていたため、公共の利害に関する事項であることが認められました。 - 真実性の証明
刑法230条の2第1項に基づき、公共の利害に関する事実であれば、発言や報道内容が真実である場合、名誉毀損に該当しない可能性があります。この判例では、記事が事実に基づいていることが証明されなければならないとされました。夕刊和歌山時事側は、記事の真実性を証明できなかったため、名誉毀損の要件が満たされるとされました。 - 相当性の要件
また、真実と信じるについて「相当の理由」がある場合も名誉毀損が認められない場合があるとされますが、この事件では、記事が真実であると信じるに足る相当の理由も証明されなかったため、公益性の要件が満たされませんでした。
最高裁の判断
最高裁判所は、この事件において以下のような重要な判断を示しました:
- 公共の利害に関する内容である場合には、報道の自由が広く認められるが、それには真実性または真実と信じるに足る相当の理由が必要である。
- 本件では、政治家に関する汚職疑惑は公共の利害に関するものであるが、真実性の証明が不十分であったことから、名誉毀損が成立するとしました。
- 刑法230条の2第1項の適用にあたり、公共性と公益性の要件は、真実性または相当性を伴わなければならないとし、単に公共の利害に関する事項であっても、虚偽である場合には報道の自由の保障は及ばないとしました。
判例の意義
「夕刊和歌山時事事件」の判例は、日本の名誉毀損における「公共の利害」「真実性」「公益性」の要件に関する基準を示したものです。特に、真実性や相当性が認められない場合には、たとえ公共性のある内容であっても名誉毀損が成立する可能性があることが示されました。この判例は、その後の日本のメディアにおける報道の自由と責任に関する議論に大きな影響を与え、報道機関が公共の利害に関わる問題を取り扱う際に慎重であるべき基準を示したものとされています。